top of page

隔絶地遺言とは?

8月11日
読了時間: 5分

隔絶地遺言とは?伝染病隔離・船中での成立要件・手続と注意点を解説

隔絶地遺言の概要

隔絶地遺言(かくぜつちいごん)とは、感染症による隔離処分や航行中の船舶内など、外界との交通が物理的・環境的に断たれた(隔絶された)状況にある人が作成できる特別な方式の遺言です。日本の民法で規定されている「特別方式の遺言(特別風致遺言)」の一種に位置づけられます。

公証人に来てもらったり、自筆証書遺言をしかるべき場所に保管・提出したりすることが困難な特殊環境下において、遺言者の最終的な意思表示を法的に保護するための救済措置として設けられています。

主な特徴

隔絶地遺言には、特殊な環境下に対応するための明確な特徴があります。

  • 公証人の関与が不要: 通常の公正証書遺言とは異なり、公証人を呼ぶことが不可能な場所で作成されるため、公証人の関与なしで手続が進められます。

  • 警察官や船長などの立会いが必要: 偽造や不正を防ぐため、公証人の代わりに警察官や船長、事務員、証人などの指定された第三者が手続に立ち会うことが義務付けられています。

  • 自筆できない場合の代筆が可能: 遺言者自身が手書きできない場合でも、立会人や証人が代筆して作成することができます。

  • 通常状態に戻ると一定期間で失効する: 隔離や航行が終了し、普通方式(自筆証書遺言や公正証書遺言など)で遺言を作成できるようになってから「6ヶ月間」生存した場合、その隔絶地遺言は自動的に効力を失います。

誤解されやすいポイント

隔絶地遺言は「外界から隔絶された場所」という特殊な状況を対象としているため、いくつかの誤解が生じやすい傾向があります。

「オンラインやリモートで作成する遺言」という意味ではありません

「隔絶地」という名称から、過疎地や離れ島からインターネット経由で作成する電子遺言のようなイメージを持たれることがありますが、そうではありません。現行の日本法においては、Zoomや電子署名等を利用したリモートでの遺言作成は認められておらず、あくまでその場に居合わせる立会人や証人とともに書面で作成する必要があります。

自発的に引きこもっている状態では利用できません

「自室から出ていない」「病気で外出を自主的に控えている」といった本人の主観や自主的な事情だけでは「隔絶地」とは認められません。行政処分による不可抗力な隔離(感染症法に基づく隔離など)や、物理的に陸地へ戻れない船舶内といった客観的かつ法的な交通遮断状態が必要です。

法律的・専門的な解説(民法上の2種類の隔絶地遺言と成立要件)

民法では、隔絶された状況の性質に応じて以下の2種類の隔絶地遺言を規定しています。

1. 伝染病隔離者遺言(民法第977条)

伝染病予防法や感染症法などの行政処分によって、病院や隔離施設、特定区域に交通を遮断されて隔離されている者が行う遺言方式です。

  • 立会人の要件: 警察官1人 および 証人1人以上 の立会いが必要です。

  • 作成方法: 遺言者、警察官、証人が共に書面に署名・押印して作成します。

  • 家庭裁判所の確認が必要: 作成後、遅滞なく家庭裁判所に請求して「遺言の確認(審判)」を得なければ効力を生じません(民法第981条による976条の準用)。

2. 在船者遺言/船中遺言(民法第978条)

陸地から離れて航行している船舶の中にいる者が行う遺言方式です。病気や事故による緊急時に限らず、単に航行中の船内にいる場合であれば利用可能です。

  • 立会人の要件: 船長または船の事務員1人 および 証人2人以上 の立会いが必要です。

  • 作成方法: 遺言者、船長(または事務員)、証人全員が書面に署名・押印します。

  • 家庭裁判所の確認は不要: 伝染病隔離者遺言や危急時遺言とは異なり、家庭裁判所の「確認」手続は不要です(ただし、相続発生後の「検認」の手続は必要となります)。

3. 普通方式による遺言が可能になってからの「6ヶ月ルール」(民法第983条)

隔絶地遺言を作成した遺言者が、隔離を解除されたり下船したりして、自筆証書遺言や公正証書遺言といった「普通方式の遺言」を作成できる状態になった場合、その状態が継続して6ヶ月間経過した時点で、過去に作成した隔絶地遺言は失効します。

これは、緊急避難的に作成された簡易な遺言よりも、通常の状態に戻った後に改めて厳格な形式で作成された意志を優先させるべきだという法的な配慮に基づいています。

作成・手続の流れ

それぞれの状況下において隔絶地遺言を作成し、相続手続につなげるための手順は以下の通りです。

伝染病隔離者遺言の場合

  1. 警察官および証人の確保: 隔離施設等の管理責任者を通じて、警察官1名と証人1名以上を確保します。

  2. 書面の作成・署名押印: 遺言内容を書面に記載(代筆可)し、遺言者・警察官・証人がそれぞれ署名・押印します。

  3. 家庭裁判所での確認手続: 利害関係人または証人が、速やかに家庭裁判所へ「確認」の申し立てを行います。

  4. (相続発生後)検認手続: 遺言者が死亡した際は、家庭裁判所で「検認」を行ってから実際の相続手続(名義変更や預貯金解約)に使用します。

在船者遺言(船中遺言)の場合

  1. 船長(事務員)および証人の確保: 船長または事務員1名と、証人2名以上を集めます。

  2. 書面の作成・署名押印: 遺言内容を記載し、全員で署名・押印を行います。

  3. 保管: 船内で厳重に保管し、下船後にしかるべき場所(自室の金庫など)で管理します。

  4. (相続発生後)検認手続: 相続発生後、家庭裁判所に遺言書を提出して「検認」を受けます。

まとめ

隔絶地遺言は、感染症による行政上の隔離や航行中の船内といった、通常の手段で遺言書を作成・提出できない特殊な状況下で用いられる救済用の遺言方式です。

公証人の関与なしで作成できる柔軟性がある一方、警察官や船長といった特定の立会人が必須である点や、隔離解除後6ヶ月で効力を失う点など、法的・形式的な制約が非常に厳格に定められています。万が一こうした状況で作成した場合でも、陸上に戻り自由な交通が回復した後は、速やかに公正証書遺言などの普通方式で改めて遺言を作成し直すことが推奨されます。

最新記事

すべて表示
手紙・はがき・便箋の正しい書き方

手紙・はがき・便箋の正しい書き方と基本マナー|頭語・結語・季節の挨拶・構成順序まで解説 はがき・便箋の書き方の基本概要 手紙やはがき、便箋(びんせん)の書き方には、古くから引き継がれている「基本の型(フォーマット)」が存在します。 改まった手紙やビジネス文書、礼状、季節の挨拶などでは、決められた構成要素に従って文章を組むことで、相手に対する敬意と丁寧な気持ちを正確に伝えることができます。基本となる

 
 
 
ふくさ(袱紗)の基本マナー

ふくさ(袱紗)の基本マナー|慶事・弔事での色の選び方・包み方・渡し方 ふくさの概要と包む理由 ふくさ(袱紗)とは、冠婚葬祭において祝儀袋(お祝い金)やお布施・香典(お悔やみ金)を包むための布のことです。 のし袋や香典袋をそのまま鞄やポケットに入れて持ち運ぶと、袋が折れ曲がったり汚れたりしてしまいます。ふくさに包むことで「大切な金封を保護する」とともに、「相手の慶びや悲しみに心を寄せる」という礼儀と

 
 
 
危急時遺言の概要

危急時遺言の概要 危急時遺言(ききゅうじいごん)とは、病気や事故、遭難などで死亡の危機が目前に迫っている場合に、例外的に認められる特別な方式の遺言です。日本の民法で定められている「特別方式の遺言(特別風致遺言)」の一種に分類されます。 自筆証書遺言や公正証書遺言などの「普通方式の遺言」を作成する時間的余裕がない状況において、遺言者の最終意思を保護することを目的としています。自筆での執筆や印鑑の押印

 
 
 

コメント


bottom of page